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大阪高等裁判所 昭和26年(ネ)456号 判決

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において「(イ)控訴人は昭和二十二年七月初頃訴外紀南魚類荷受卸売組合の設立当初より同組合の組合員兼組合長であつたところ、同二十三年九月頃組合員全員の同意を得て同組合を脱退し同時にその代表者をも辞任したのであるが、組合員の懇請により同年末迄はこれを発表せず同二十四年一月十一日に至り同日附紀南新聞に新組合長渡辺欽良以下新役員の就任広告を掲載して控訴人が同組合より脱退したことを公表したのである。従つて控訴人は昭和二十四年五月十二日以降に生じた被控訴人主張の本件取引については何等の関係はない。尚これより先昭和二十三年十二月中旬被控訴人の前主太地漁業会の代表者であり且つ被控訴人の前代表者である漁野佐久太郎はその従業員数名と共に前記紀南荷受組合より招待せられ、控訴人の組合脱退と新組合長等の就任の披露を受けてこれを承認したのであるから、被控訴人が本訴において控訴人を右組合員兼代表者と主張するのは禁反言の原則に反し不当である。(ロ)前記紀南荷受組合は民法上の任意組合であつて、荷受機関として所轄官庁の登録を受けることは単に指定消費地域において業として生鮮水産物を買受け又は委託を受けて卸売する資格を取得するに止り、他の登記等の如く右登録によつて前記組合が成立するものでなく又成立した同組合の性質に変更を来すものでもない。そして右登録は個人であると団体であるとを問わないのであつて、団体の場合には登録申請書に代表者の氏名を記載することを要するのであるが、右は申請の要件に過ぎないところ、代表者その他の役員の交迭又は組合員の脱退については法令上その登録を必要としないのであるから何等官庁の干渉を受けず、その許可若くは届出の手続をしなければ効力を生じないものでない。従つて控訴人は前記組合より脱退し代表者を辞任したと同時に、その登録の如何に拘らず代表者たる権限を失い新組合長のみが当然に同組合を代表するのである。(ハ)仮にしからずして控訴人がなお組合員兼代表者たる地位を有するとしても、本件取引は代行者と自称する塩山福松及び土肥真次(何れも原審相被告)に対して魚類を販売したと云うのであつて、右はこの両名個人との間における売買であるから、前記紀南荷受組合は何等本件代金債務を負担したものでない。(ニ)仮に被控訴人の前主太地漁業会が右組合に本件代金債権を有しこれを被控訴人に対して譲渡したとしても、右組合に対し適法にその通知がなされていない。尤も控訴人に対し同組合の代表者として本件債権の譲渡通知が到達しているが、控訴人は前記の如く既に組合を脱退し組合員及び組合長でないのであるから、本件債権に全く関係のない第三者たる控訴人に対する右通知は何等の効力をも生じない。」旨補述し、被控訴代理人は、控訴人の答弁事実を否認し「(イ)控訴人が前記紀南荷受組合より脱退したのは仮装である。控訴人主張の新聞広告は右組合の所在及び名称に相違があるのみならず控訴人の組合脱退に関する文言なく虚偽のものである。本件取引は前記組合との間になされたものであつて、その業務執行の任に当つた者は組合員塩山福松、同土肥真次(何れも原審相被告)であるが、その責任は同組合員たる控訴人等全員が連帯してこれを負担すべきものである。(ロ)そして前記紀南荷受組合は公法関係の支配を受け臨時物資需給調整法の委任による農林省令生鮮水産物配給規則に基き都道府県知事によつて登録せられて成立する公認荷受機関であつて、単純なる民法上の任意組合でなく主要事項は知事の監督許可を要する。即ち国民の食生活の安定を計るため統制が行われ生鮮魚介類に対しても出荷集荷配給機構が制定されたものであつて、その荷受機関としては知事により登録を受けることを要し、この登録を受けるには氏名、団体にあつてはその団体名及び代表者の氏名を記載し定款その他これに準ずる書類を添付すべき旨規定せられているが、右登録とは知事の許可を包含する趣旨であり外部に対し対抗力を有するに至ること登記等と同一であるから、荷受機関設立後もこれに準じて、代表者の異動その他の重要事項の変更は必ず届出若くは許可を受けなければならない。従つて仮に控訴人が前記組合の組合長を辞任したとしても、監督官庁に何等の手続をしていない以上、一般債権者を保護するためにもその責任を免れることはできない。」旨附陳した外、原判決事実摘示と同一であるから、茲にこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

成立に争いない甲第三号証によれば、紀南魚類荷受卸売組合は、その組合員であり且つ代表者たる控訴人田淵安一の申請に基き、昭和二十二年七月二十九日所轄官庁の和歌山県知事により生鮮水産物の荷受機関として登録を受けたこと、明白である。

被控訴人は、その前主たる太地漁業会が右紀南荷受組合に対し昭和二十四年五月十二日以降同月十七日迄の間に売渡した魚類の残代金合計十二万七千九百七十二円につき同二十五年四月十五日同漁業会より被控訴人において債権譲渡を受けたから、右荷受組合の組合員兼組合長たる控訴人に対してこの残代金の支払を求めると主張するに対し、控訴人は、昭和二十三年九月頃右荷受組合より脱退し且つその代表者をも辞任して同二十四年一月頃これを公表したのであるから、その後に生じた前記取引については何等の責任がない旨抗争する。

よつて先ず控訴人主張の組合脱退の存否について判断するのに、成立に争いない甲第五号証の一、二、同第九号証並に乙第三号証の一乃至三及び原審並に当審における証人土肥真次の証言、当審における控訴本人訊問の結果を綜合すれば、控訴人は前記紀南荷受組合設立の当初よりその組合員且つ代表者として、専務理事土肥真次(原審相被告)と共に同組合の運営を指揮していたのであるが、昭和二十三年七月頃取引上の失敗から大欠損を生じて以来業績不良となつたため同年九月頃控訴人において右組合の解散を提案したところ、右土肥はこれに反対し自己に一任されたい旨を申出た結果、控訴人は爾後手を引き組合業務に関与せず事実上脱退したのであるが、他の懇請によつて対外信用上控訴人の名義を残存していたけれども、同年十二月に至り右土肥が訴外渡辺欽良を物色勧誘して控訴人の後任とし、組合の機構を改革して同人が組合長に就任すると共にその下に右土肥が業務主任、中崎みつゑ(原審相被告)等が理事として同組合を再興することとなり、同月中頃太地町ふさや旅館において新旧組合長その他役員の交迭披露宴を催したのであつて、その際被控訴人の前主たる太地漁業会の当時の代表者であり且つ被控訴人の前代表者である漁野佐久太郎等関係者数名も招待されて出席し、爾後の取引継続に関して打合せを行い、更に翌二十四年一月新宮市における紀南新聞紙上に前記の如き組合新役員の就任広告を掲載公表した事実、その後間もなく右の渡辺新組合長も失敗し多額の負債を生じて所在不明となつたため、塩山福松(原審相被告)が右土肥と共に代行者と称して本件取引をするに至つた事実を認めることができる。

そして、民法上の組合にあつてはその存続期間の定めがない限り組合員は一方的意思表示を以て組合を任意脱退し得るものであるが、前記紀南荷受組合は後記の如く民法上の任意組合であつて、しかも前掲甲第三号証添付の定款には同組合の存続期間の定めがないのであるから、その組合員である控訴人は何時にてもこれを脱退できるものと云わなければならないところ、前記認定の事実に徴すれば、控訴人は右の昭和二十三年十二月限り前記荷受組合の機構改革により組合長を辞任すると共に組合員としても同組合より脱退したものと解せざるを得ない。尤も控訴人は同組合との間に未だ右脱退による清算をせず且つその後も右土肥より組合の運営につき相談を受けていた如くであるが、前掲の各証拠によれば、控訴人は右脱退後全く組合業務に関与せず唯だ従来の関係上土肥の来訪を受けていたのに過ぎないことを窺い得るのであるから、かかる事情が存したとしても何等右認定を否定する資料となるものでなく、前記認定に反する原審並に当審における被控訴人の代表者漁野佐久太郎訊問の結果は信用しない。その他被控訴人の提出援用する全証拠によつても右認定を覆えすに足らないのであつて、被控訴人は、控訴人の右脱退は仮装であり新聞広告は控訴人脱退の文言なく且つ虚偽であると主張するけれども、脱退が仮装であるとの点についてはこれを首肯するに足る証拠がなく、又新聞広告については前記認定の経過に照し自から控訴人の脱退後これを公表したものと理解できるのであるから、被控訴人の右主張は採用し難い。

ところで被控訴人は、控訴人の右脱退に関し、前記紀南荷受組合は統制機関として単純なる民法上の任意組合でなく、その設立後においても登録の際に準じて代表者の異動又は重要事項の変更は監督官庁に届出若くは許可を受けることを要するのであるが、控訴人は当初代表者として登録し現在迄何等その変更の手続をしていないから、組合長を辞任したとしてもその責任を免れることはできない旨主張するので、その当否について判断するのに、昭和二十二年四月十六日農林省令第二八号生鮮水産物配給規則第十一条によれば、指定消費地域において業として生鮮水産物を買受け又は委託を受けて卸売するものは生鮮水産物の荷受機関として都道府県知事により登録を受けることを要し、この登録を受けんとするものは氏名、団体にあつてはその団体名代表者の氏名を記載し定款その他これに準ずる書類を添付して荷受機関登録申請書を知事に提出すべき旨規定せられているのであるが、右規定の趣旨は単に生鮮水産物の消費地における荷受統制上所轄官庁の行政監督を期することを目的とし、私法上の効果をも併せて規律するものでないと解すべきであるから、かかる登録は荷受機関たらんとする個人又は団体にその公認資格を付与するに過ぎず、その基本となる個人又は団体自体の法律関係については別に考慮せらるべきものであつて、会社における登記等とは異なり、右登録によつて組合その他の団体が始めて成立するものでなく、又既に適法に設立せられている組合その他の団体の性質に変更を来たす筋合のものでもない。従つて団体の場合その代表者の氏名をも登録することは行政監督の便宜に出たものであつて、この代表者に交迭があつたとき直に届出るべきことは事理の当然であるが、その届出を怠つた場合、従来の代表者に対する行政監督上の責任は兎も角取引上の責任については前示規則の関知するところではなく、専ら実体法によりこれを決しなければならない。

これを本件について見るのに、前掲甲第三号証添付の定款によれば前記紀南荷受組合は民法上の任意組合として設立せられたものであること明かであつて、同組合が所轄和歌山県知事により荷受機関として登録を受けたことは冒頭認定の如くであるから、所謂公認荷受機関としての資格を取得したものであるが、これがため民法上の任意組合たる性質には何等の消長を来たすことなく、同組合と第三者との取引は組合に関する規定に依拠すべきものであるところ、控訴人が当初同組合の代表者として登録を受けながらその後組合長を辞任し且つ組合を脱退して何等の手続を執つていないことは控訴人も亦自認するところであるけれども、前段認定の如く控訴人は昭和二十三年十二月限り新組合長の就任により前記組合の組合長を辞任すると共に同組合より脱退したのであるから、爾後における同組合の第三者に対する取引上の責任は組合員としてこれを負担する義務のないこと勿論であつて、この点に関する被控訴人の主張は是認できない。

更に被控訴人は、控訴人が代表者として監督官庁に登録を受けこれを公示せられている以上、その変更ない限り第三者保護のためにも控訴人の責任は免れないと主張するが、民法上の組合は取引当時における組合員がその責任を負担すべきものであつて、この組合員の範囲並に信用資力等は結局組合と取引する第三者の注意に俟つ外はなく、このことは民法上の組合の本質に由来するものであるから、かかる行政官庁における登録を以て左右することができないのみならず、本件にあつては新組合長の就任により控訴人が組合長を辞任し且つ組合を脱退した際その披露宴に招待せられた被控訴人の前主太地漁業会の代表者その他の関係者が出席して新組合長等と取引の継続について談合し更に当時その旨の新聞広告がなされていること前段認定の如くであるから、被控訴人の右前主は控訴人の離脱を熟知承認の上前記紀南荷受組合と本件取引をしたものと認めざるを得ないのであつて、何等右前主の保護に欠くるところはない。

さすれば、控訴人が前記組合の組合長を辞任すると共に同組合を脱退した以後において同組合との間に生じた被控訴人主張の本件取引については、控訴人は何等その責に任ずべき義務のないこと明白であつて、控訴人が右組合の組合長又は組合員であることを前提とする被控訴人の本訴請求は既にこの点において失当であるから、爾余の点について判断する迄もなく排斥を免れないところこれを認容した原判決は不当であるから取消すべきものとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 三吉信隆 萩原潤三 小野田常太郎)

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